長年使用したかのような渋い色味を楽しめるアッシュの熱処理材に五倍子(ごばいし)を使った「草木染」を施し、深みのあるブラウンに仕上げています。染料に使用している五倍子(ごばいし/ふし)とは、ウルシ科の植物である白膠木(ぬるで)の小枝や茎にできた瘤のようになった塊を乾かしたもののことを指します。虫による刺激によって保護成分であるタンニン酸がその部分に集中し、ふくらんで瘤のようになります。中が空洞になっていることから空五倍子(うつぶし)とも呼ばれています。大量のタンニンが含まれており、染料の他に薬用や革をなめすときに使われてきました。草木染の染料としての歴史も古く、平安時代から伝わる伝統色である「空五倍子色(うつぶしいろ)」は、五倍子で染めたような薄墨色をしていることからそのように呼ばれています。
また、江戸時代の既婚女性のシンボルでもある「お歯黒」にもこの五倍子が用いられていました。お歯黒は魏志倭人伝に「黒歯国有り」との記述もあり、日本で最も古い化粧ではないかと考えられています。五倍子に含まれるタンニンには歯槽膿漏や虫歯の予防効果があり、お歯黒は美容と健康の維持のために広く普及したと言われています。
伝統的な染料である五倍子を用いて奥行きのあるセピア色に仕上げたアッシュ熱処理材を、最後に鏡面仕上げの塗装を施すことで磨き上げられた艶のある材面を再現しています。

画像:白膠木(ぬるで)にできた空五倍子(うつぶし)