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NO.649 モノ編

2007.09.16 | なぐり 表面加工

職人の技を意匠に採り入れる「なぐり加工」ー現代に活かされる日本の伝統シリーズー

はじめに

 現代の空間デザインのなかに活かされている日本の伝統的な技術・技法を紹介するシリーズの第2弾。
門扉や数寄屋建築に欠かせない技法である「なぐり」。丸太や板の表面に、道具の痕跡を残し、それを味わいとしてみなすその技法は、現代において、意匠性を高めるデザイン要素のひとつとして注目をあつめています。
今号では、そんな古くから受け継がれてきた日本の伝統的な大工技術である「なぐり」加工について紹介します。

 

ヨーロピアンオーク なぐり加工(表面加工)フローリング

表面加工の始まり

 なぐりの中でもハツリ加工に使用される「釿(ちょうな)」は、大工道具の化石ともいわれ、板材の表面の凹凸や皮、腐りやすい白太(辺材)の部分をはつる道具として古くから使われてきました。その歴史は古く、石器時代から存在しています。
あくまで下処理でしかなかった「なぐり」加工を意匠材として採り入れたのは、かの千利休。それまで裏方であった材料や仕上げを表舞台へと引き上げ、自然の姿をそのまま茶室に持ち込み侘びた風情に仕立てました。利休による草庵茶室の柱は、このころの書院建築でみられるような角柱ではなく、丸太のまま柱に用いました。しかし、ここで用いられた丸太は、現在の丸太柱のように人工的に密植され、枝打ちなどの手入れがされていなかったため、枝の跡や傷などがあり、その部分を「釿」ではつって用いられていました。以来、数寄屋建築では、「なぐり」の柱や板が意匠的に用いられるようになったとされています。

画像:釿(ちょうな)
出典:岩倉市ホームページ

日本人の美意識となぐり加工

世界各国にも木造建築は古くからあり、「なぐり」加工を施す「釿」とほぼ同じ役割を果たす木工具も存在します。ヨーロッパなどでは、主に日本の「まさかり」に相当する横斧(刃が柄と平行についている)で用材を削り仕上げしたといわれており、現在の「釿」の形は日本独特に発展した道具ともいえます。しかし、それらはあくまで下処理用であり、意識的に「なぐり」を意匠としてとらえ、木材の仕上げとして使用しているのは日本だけだといわれています。
国土の大半を山地が占め、森林に恵まれ、水が豊富な日本で木材が建築材料の主流とされてきたのは必然といえますが、それを単なる構造材としてではなく、意匠的なこだわりにまで昇華させているのは、実利を超えた愛情があるからこそだといえるでしょう。

伝統的な表面加工の種類

伝統的な表面加工は手作業。伝統的ななぐり加工ができる職人は減りつつあります。「カンッ、カンッ、カンッ…」というリズミカルな音とともになぐりの表情が生まれていきますが、技術が未熟だと逆目になってしまいささくれがおこる、しかしかえって上手すぎても自然な風合いが消えてしまうという、まさに職人技なのです。

■なぐり加工

釿によるなぐり加工には「山なぐり」と「化粧なぐり」の2種類があります。
山なぐりは、元々は伐採した木を山から運び出す前に施されていた加工で、丸太の表皮や白太などの余分な部分をはつったものです。なぐりが使われ始めた当初の意図が踏襲された、野趣あふれる加工方法で門柱や小屋梁などで見られます。
化粧なぐりは、角材や板材に製材してから表面をはつったもののことで、床柱や床框、落掛、腰板、門扉、濡縁などに見られます。道具は釿を使用し、刃の形によって仕上がりの表情に違いが現れ、刃先がまっすぐな平釿で施したものは、平一枚なぐりといい、刃先が弧を描いた釿で施したものは、六角形が重なった表情になり亀甲なぐりと呼ばれています。

■うづくり

うづくりは、釿による表面加工ではありませんが、伝統的な木材の表面加工のひとつです。
木材の表面を、カルカヤ(イネ科の植物)の根やシュロ(ヤシの木の樹皮の毛の部分)を束ねた道具などでこすり、木目を際立たせる技法です。柔らかい夏目を押さえて、硬い冬目を残すことで浮き立たせ、立体的な表情をつくりだし、主に天井板などに使用されていました。

なぐりは「名栗」と表され、その名の通り、主として栗材に施されていました。水に強く、いい光沢が出るから、というのが理由です。しかし、建築資材としての木材の多様化が進んでいる現在では、多彩な樹種に施され、表面加工の種類も増大しています。また、職人技として手作業で行われていたなぐり加工も、現在では機械でその味わいを表現させることが多くなりました。

様々な表面加工
左上の「亀甲なぐり」や、左下、「丸鋸目」などのほかにも、
多種多様な表面加工が登場しています。(参考画像)

マルホンの表面加工

 マルホンでは、なぐり加工を独自の視点でモダンにアレンジし、職人が手仕事で仕上げたような味のある加工を再現しました。陽射しや照明が当たることによって陰影を生みだし、裸足で歩くとさらりと心地よく、やさしい質感に癒されます。無垢材ならではの魅力を視覚と触覚の両面から引き出しています。なお、この凹凸の高低差は最大で約3mm。表面を貼っただけの新建材にはない木の厚みや、無垢材らしさをより強調しています。

■スプーンカット

スプーンで表面を削り取ったかのような丸みを帯びた大きめの模様で、流れるようなリズム感があります。丸みのある大きな凹凸に加え、「ブラッシング」*を施すことで素足に吸い付くように心地よい感触が得られます。西洋の食文化の中で生まれた道具であるスプーンで削ったかのような風合いは和風の空間だけではなく、洋風の空間にもとても相性が良いです。
*年輪の間にある柔らかい部分を削り、年輪をくっきり浮き立たせる加工です。日本の伝統技法である“うづくり”と同様、素材感を引き立てます。

 

■ナイフカット

「斧(ヨキ)」によるはつり加工をイメージした、荒々しくも規則性のあるデザインです。シャープな削り跡を活かした浅彫りが、幾何学的でいきいきとした表情を作り出しています。こちらもスプーンカット同様、ブラッシング加工を施しています。

ヨーロピアンオーク 無垢フローリング ナイフカット 150mm巾

 

■ツキノミ01

「鑿(のみ)」は部材に穴を開ける・削る・仕上げなどに用いられる道具です。鑿だけは大が小を兼ねられず、形や大きさに多数の種類が存在します。
「突鑿(つきのみ)」は柄が長く、右手に柄を持ち、左手に刃を添えて前方に突いて削ります。彫刻や表面の仕上げなどの細かい作業には欠かせない道具です。材を横から突くため、木目方向に直交した横長の柄が彫られ、見る方向によって陰影が映し出されます。

 

■チョウナ01

先述の「釿(ちょうな)」を使って仕上げたような表情を再現しました。歴史のある大工道具ではつったような質感は、和の伝統美を感じさせます。木造建築が減少した現代では、実際の建築や製材の現場で釿が実用されることもほとんどなくなりました。釿を使いこなせる職人も少なくなってしまいましたが、江戸時代に建築された古民家を解体した際に出る古材は、表面に浮かんだ釿の削り痕が独特の意匠とみなされて珍重されています。

 

■ハンドスクレイプ

表面に波状の凹凸をつけることで、立体的で何年も使い込んだ古い床材のような表情を持たせています。一枚一枚に手作業で削ったような凹凸をつけているため、それぞれ表情が異なるオリジナリティと、他の表面加工にはない直線的なデザインを楽しむことができます。

 

フローリングやパネリングだけでなく、階段や框などのお好きな部材にも加工が可能です。

なぐり加工 施工例

製品情報

▼選べる表面加工
https://www.mokuzai.com/product/surface/

<参考文献>
・「大工技術を意匠として採り入れる」『コンフォルト』2007年4月号,p65-69建築資料研究社
・竹中大工道具館(1989)『竹中大工道具館 展示解説』株式会社トータルメディア開発研究所

2019年6月26日改訂

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