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ひとりひとりの適材適所
―生活シーンに見合った床材選び―【687 号】

 無垢材を選ぶ際、ほとんどの方が「色」や「巾」、「木目」といった「見た目」を一番に気にされます。もちろんお好みの内装や家具との兼ね合いで、「見た目」はとても重要な要素です。
 しかし、実際の暮らしを想像してみてください。「見た目」以外にも、さまざまな用途に応じたご要望があるのではないでしょうか。例えば「水周りに使用したい」「ペットを飼っている」「素足で過ごしたい」「土足、重歩行でもOKなものを探している」など…。
 今回の「見る木活かす木」では、“生活シーンに見合った床材を選ぶ”ということに着目してみましょう。

水周りに適した床材

 湿度が高い場所で木材を使用する場合、虫害や腐朽菌の繁殖などで傷みやすくなります。こうした場所では水に強く、かつ腐りにくい木を選ぶことが必要になります。古くから船舶の甲板には無垢材が使われており、例えば、練習船の初代日本丸、客船のクイーンエリザベス2世号、戦艦三笠などで見ることができます。そうした船舶の多くの甲板には古くからチークが使われてきました。

 そもそもチークには油分が多く含まれ、その油の中に「tectoguinone」という殺虫成分も含まれているため、虫害にも強く、打ち込んだ釘が錆びないことからです。そのほかハードサイプレスヒノキ青森ヒバなども水や腐朽に強い木として有名です。
写真1:チーク材を使用したお手洗い

ペットと暮らすのに適した床材

 現在、日本国内で飼われている室内犬の約8割が、実は腰に何らかのトラブルを抱えているといわれているのです。犬の加齢でパット(肉球)から湿度が失われるようになると、ツルツルした床では滑りやすくなり、腰への負担が増していき、老化とともに腰を悪くしてしまう傾向があるのです。
 そうした室内犬のためには、浸透性塗料を施したスギヒノキパインなどの柔らかめな材はもちろんのこと、オークナラタモなどの適度な堅さでグリップが利く材もおすすめです。
 また、犬や猫の爪跡の補修がたやすくできるという意味でも浸透性塗料を施した無垢材は、ペットに適した材と言えるでしょう。
写真2:パイン材の上で

素足で過ごす床材

 下の表を見ても分かるように、無垢材は熱伝導率が低いという特徴があります。
 例えばスギの熱伝導率は0.087W/(m・k)。コンクリートの熱伝導率1.0W/(m・k)と比べると12分の1の数値で、それだけ熱を伝えにくい、つまり木材はぬくもりを維持できるという事がわかります。
 日本における住宅文化では、靴を脱いで素足で歩き、また床に直接腰を下ろす習慣があります。古くから日本家屋にスギヒノキが使用されてきたのは、適度な堅さを持ちながら、空気を多く含んでいるために踏み心地がよい、という理由があり、理にかなったことなのです。

土足・重歩行でもOKな床材

 商業施設や公共施設など多くの人が土足で頻繁に歩行する場合には傷や磨耗に強い木材を選択する必要があります。木材の硬さはJanka(ヤンカ)硬さ、ブリネル硬さで表されます。

▼『フローリングの硬さ(見る木活かす木【619号】)』

イペジャトバパープルハートといった俗に“アイアンウッド”と呼ばれる硬く重い木材は、優れた耐久性があります。また、木目と色柄のコントラストが強い木材(ラクティックグレードの材など)は、傷を目立たなくする効果があります。それらを浸透性塗料で仕上ることにより補修も容易に施すことが可能となります。

ひとりひとりの適材適所

 日本は古来より豊かな森林に恵まれ、さまざまな環境・状況の中で木材を使用してきました。奈良時代に成立した、日本に伝存する最古の正史と言われる『日本書紀』神代の巻に、スサノオノミコトの説話として、

「韓郷の嶋には、これ金銀あり。たとひ吾が児の所御す国に、浮宝(舟) 有らずば、未だ佳からじ」とのたまひて、乃ち鬚髯を抜きて散つ。即ち、 杉となる。また、胸の毛を抜き散つ。これ檜になる。尻の毛は、これ柀 になる。眉の毛は、これ樟になる。すでにしてその用ひるべきものを定 む。すなはち稱してのたまはく。「杉および樟、この両の樹は、もつて 浮宝(舟)とすべし。檜はもつて瑞宮(宮殿)をつくる材にすべし。柀 はもつて顕見蒼生の奥津棄戸(廟)にもち臥さむ具(棺)にすべし。そ のくらふべき八十木種、みなよく播し生う」とのたまふ。  

とあります。「抗菌作用が高いスギ(杉)とクスノキ(楠)は船に、腐りにくく強度も高いヒノキ(檜)は神殿に、耐湿性に優れるマキ(槇)は死者を弔う棺に使用するよう…」という意味です。これらの用途も、決して適当に決められているのではなく、それぞれの特性を見極めたものであり、まさに歴史的にも木材は適材適所に使われてきたことが分かります。

みなさまが思い描くライフスタイルはどのようなものでしょうか?
「色」「巾」「木目」といった「見た目」の印象に加えて、おひとりおひとりの環境や状況に寄り添った材選びのヒントにしていただければ幸いです。