無垢材と学校施設 
-木を使って快適空間をつくる-【722 号】

 子どもたちの日常生活において長い時間を過ごす校舎や園舎は、学びの場であるとともに、暮らしの場でもあります。このように多くの時間を過ごす場所が、心地よく快適な空間であれば、日々の暮らしがよりよいものになるのではないでしょうか。
 今号では、教育文化施設の室内環境と無垢材の関係についてご紹介していきます。

無垢材と教育施設

 戦後、学校建築は非木造化の検討が始まり、RC造(Reinforced Concrete 鉄筋コンクリート造)もしくは鉄骨造などの非木造校舎が普及しました。1980年代になると、戦後に植林した木が徐々に用材としての伐期を迎え、次第に木の使用が社会に求められるようになります。そして学校施設においても、木の活用が再び促進されるようになりました。現在では、子どもたちの心身の成長の場である学校施設において、木材は生活環境の向上に大きな効果があると期待され、積極的に活用されています。
 ここでは、校舎・園舎の内装や設備に無垢材を使用することにより、子どもたちの学校・園生活にどのような影響を及ぼすのか、無垢材の持つ様々な特性から考えてみます。


画像2:木造の教室(写真素材-photolobrary)

視覚特性 -目にやさしい木目と木肌-

 木が使われている空間にいると、なんだかリラックスして癒されるという方も多いのではないでしょうか。
 リラックスして癒される一つの理由として、木目にある「1/fゆらぎ」というリズムによる視認効果があります。「1/fゆらぎ」とは、自然界で生み出された、規則性と不規則性がちょうどよいバランスで調和したパターンのことで、この「1/fゆらぎ」に、人は無意識のうちに心地よさを感じると言われています。木目の間隔は、等間隔に見えてもわずかなズレがあり、まさに心地よいと感じる「1/fゆらぎ」のリズムを持っているため、リラックス効果をもたらすのです。木目以外では、心音、ろうそくの炎の揺れや雨音などにも同じゆらぎがあります。
 また、木造校舎で生活する子どもは、目の疲れを訴えることが少ないと言われています*。それは、木材には目にやさしい特徴がいくつもあるからです。例えば、木材はコンクリートなどの無機材料と比べると、目に有害な紫外線を吸収する効果が高いことがわかっています**。他にも、木材の表面には、肉眼では見えないほどの細かな凸凹があり、この凸凹に当たった光は一直線に反射せず拡散されるので、眩しさを軽減してくれます。さらに、ある実験結果によると、手や足で木材に直接触れることで、目のピント調節に関わる微動調節機能に良い変化をもたらすことがわかっています***。このような理由から、子どもたちに目の疲れが起こるリスクが少なくなっていると考えられます。


視覚特性については以下の記事も合わせてご参照ください。
>目にも心にもやさしい木目の科学

*服部芳明, 橘田紘洋「校舎構造材料の及ぼす児童の身体の調子への影響 : 最近の木造学校校舎の教室環境に関する研究(その 3)」『鹿児島大学農学部演習林報告 第20巻』1993, p.8
**武田雄二「建築材料の紫外線反射特性の概要の把握」『日本建築学会構造系論文集第505号,31 -36,』1998参照の上、作者編
***山田正編『木質環境の科学』海青社, 1987, p.403, 「実験 Ⅱ床材料が与える皮膚刺激が微動調節に及ぼす影響」

触覚特性 -心地よい触感-

図1:木造校舎における机材質の違いによる授業中の子どもの様子
出典:橘田紘洋編集代表『木造校舎の教育環境』日本住宅・木材技術センター, 2004, p.60, 「あたたかみとうるおいのある木の学校」p.12, 図4
 
 図1のように、スチール製の机を使用している学校より、木製の机を使用している学校の方が「注意集中の困難さ」「眠気とだるさ」を訴える子どもが少ないことがわかっています。また、文部科学省が実施したアンケート結果*によると、保育園児においても、ビニールタイル床と比べ木質床の場合、床に座ったり寝転んだりする行為が多く、かつ遊びに集中する様子が多くみられます。
 これらは、木材の触り心地が快適であり、また自律神経活動によい影響がもたらされるためだと考えられます。**例えば、木材には周辺環境の湿度が高ければ空気中の水分を吸収し、湿度が低ければ木の中の水分を吐き出して、湿度を適度な状態に保とうとする調湿作用があるため、湿度が高い環境でもべたつきにくくなります。また、木材は無機材料と比べ熱伝導率が低いため、木材と接触している身体の部分の体温が奪われにくく、冷たさを感じにくいという特徴もあります。中でも、スギやヒノキのような柔らかい針葉樹は熱伝導率が低いため、子どもが常に身体を接するような幼稚園や保育園の床に導入することで、子どもがより快適にすごすことができるのではないでしょうか。ただし、耐久性が求められる場合には、広葉樹の使用がお勧めです。国産材であればクリやケヤキ、ヤマザクラなどが該当します。
 さらに、木材に触れていると、脳の前頭前野活動の鎮静化と副交感神経活動の亢進をもたらし、人が生理的にリラックスすることが科学的に証明されています**。
 このような木材の特性により、木質の内装や設備を使用している校舎・園舎の方が、快適度が高くリラックスできるため、注意集中の困難や、眠気・だるさを訴える子どもが少ないと考えられます。


*文部科学省「あたたかみとうるおいのある木の学校 早わかり木の学校」, 社団法人文教施設協会, 2007, p12
**.池井晴美, 宋チョロン, 宮崎良文. (2017) ヒノキ材への手掌接触が生理応答に及ぼす影響. 日本木材学会第67回研究発表要旨集, G17-09-1345.


【製品情報】
>FSC®認証天竜スギ 無垢フローリング
>FSC®認証尾鷲ヒノキ 無垢フローリング
>FSC®認証 国産広葉樹無垢フローリング

温覚特性 -過ごしやすい室内の温度の分布-

 下図は、木造校舎とRC造校舎のそれぞれの教室を、冬場に石油ストーブで暖めた場合の、2時間後の壁面の温度を表した図です。これによると、木造校舎の教室では室温と床・壁が近い温度になっているのに対し、RC造校舎の教室では、室温に比べ床・壁の温度が低いままです。このように、RC造校舎の教室では、室内が適温であっても、床面や壁面の温度が高くならず、身体の足元や壁に近い部分が冷えてしまい、頭部はあたたかいが足元が冷えているという、のぼせやすい環境になってしまうのです。これでは倦怠感や眠気をもよおし、作業能率を下げてしまいます。
 一方、木造校舎の教室では短時間で室温と床面や壁面の表面温度がほぼ等しくなり、温度差の少ない快適な空間を作り出しています。
図2:石油ストーブ採暖時の教室周壁面温度
出典:橘田紘洋『木造校舎と鉄筋コンクリート造校舎の比較による学校・校舎内環境の検討・科研費報告書』
文部科学省, 1992,「あたたかみとうるおいのある木の学校」 p12, 表1

聴覚特性 -耳にやさしい音の響き-

 誰しも、トンネルやお風呂の中で大きな声を出すと、音が響いて聞こえる経験をしたことがあるのではないでしょうか。この現象は、音が周りの床や壁・天井に反射することで起こります。
 図3は、RC造の洋間と、木造の和室それぞれで、拍子木を打った時の音の小さくなり方の様子を測ったものです。木造の和室に比べ、RC造の洋間では音が響きやすく、音が小さくなるまでに多くの時間を要することがわかります。音が響きやすい環境では、会話の際に声が聞きとりにくくなってしまいます。
図3:和室と洋間における音の減衰
出典:*山田正編『木質環境の科学』海青社, 1987 p.153, 斉藤寿義他「図1:和室と洋室における音の減衰」

 さらに、図4のように、木はコンクリートなどに比べて低音域・中音域・高音域の音をバランスよく吸収する傾向が高いため、不快な雑音が吸収され、音が聞き取りやすくなると考えられます。
 先日、当社無垢フローリングを導入いただいたある美術館がテレビ番組で特集されていました。中でタレントの方々がされている会話がテレビを介しても明らかに聞きやすかったことを覚えています。よって、学校生活に置き換えると、RC造校舎に比べ木造校舎では、授業中の先生や子供たちの声が聞き取りやすくなり、集中力アップの助けになる可能性があるでしょう。
図4:和室と洋室の内装の吸音率
出典:*山田正編『木質環境の科学』海青社, 1987 p.154, 鈴木正治「表1:和室と洋室の内装の吸音率」

聴覚特性については以下の記事も合わせてご参照ください。
>耳にやさしい木の秘密


 子どもたちの健やかな成長や充実した学習には、私的な空間のみならず、学校施設も非常に大切な空間です。その空間をより心地よいものにするため、校舎や園舎の内装や設備に無垢材を取り入れてみてはいかがでしょうか。


【参考文献】
1.文部科学省「あたたかみとうるおいのある木の学校 早わかり木の学校」社団法人文教施設協会, 2007
2.山田正編『木質環境の科学』海青社, 1987, p.65-77, p.393-403, p.430
3.服部芳明, 橘田紘洋「校舎構造材料の及ぼす児童の身体の調子への影響 : 最近の木造学校校舎の教室環境に関する研究(その3)」『鹿児島大学農学部演習林報告 第20巻』1993, p.8
4.武田雄二「建築材料の紫外線反射特性の概要の把握」『日本建築学会構造系論文集第505号,31 -36』1998
5.西本雅人,河合慎介,今井正次.日比野拓「木質内装化の保育室に関する保育者による評価」『日本建築学会計画系論文集 第84巻 756号』2019, p.355-363
6. 池井晴美, 宋チョロン, 宮崎良文. (2017) ヒノキ材への手掌接触が生理応答に及ぼす影響. 日本木材学会第67回研究発表要旨集, G17-09-1345.
7.西村三香子,伊香賀俊治,平田潤一郎「木質内装空間が自律神経状態を介して知的生産性に及ぼす影響に関する被験者実験」