ナラ・オーク材
―世界中で愛される優良材―
【706 号】

 オークとは、ブナ科コナラ属(学名:Quercus)の落葉広葉樹です。世界中で数百種類存在し、古くから欧米では床材はもちろん、家具、船舶、ワインやウイスキーの樽など様々な用途に使用されてきました。日本でも住宅や店舗などの床で幅広く使用されており、無垢材といえば「オーク」といっても過言ではありません。今号ではオークの特徴や用途、歴史について深くご紹介いたします。
画像1:ナラ・オーク材
施工例
ナラとカシ
 
 英語のオークはブナ科のナラ類(コナラ亜属)の落葉樹を指します。しばしばカシ(樫)もオークと訳されることがありますが、厳密に言うと、カシはオークではありません。明治時代の翻訳家が落葉樹のオークを「樫」と誤訳した例があり、現在でも勘違いされています。ブナ科コナラ属(学名:Quercus)のうち、落葉樹の種群はナラ(楢)、常緑樹の種群はカシ(樫)と呼ばれますが、英語圏ではこの二つを区別しません。(温暖な地域に分布する常緑のオークはライヴオーク(live oak)と呼ばれています。)ではなぜカシはオークではないのか。それは、ヨーロッパ、北米のいずれにおいても常緑のカシ類が少ないためです。そもそもオークという言葉を使う地域では、ナラしかなかったのです。かつて日本においては広葉樹よりも針葉樹が好まれていたために、明治時代の翻訳家は「これだけ人気のあるオークと言う木は、あの箸にも棒にもかからん楢の木であるはずがない」と思いこんで「樫の木」と訳してしまったそうです。
 多くの用途に使われるオークは、ホワイトオーク類でヨーロピアンオークと北米のホワイトオークがあります。また、それらによく似た樹種として米国東部に分布するレッドオーク(学名:Quercus spp)もあります。レッドオークも希少となった北米産ホワイトオークの代わりとして広く利用されています。

立木
画像2:立木

立木
画像5:立木




どんぐりの木

 ナラ・オーク材は我々日本人にとって、どんぐりの木として馴染みの深い木です。童謡「どんぐりころころ」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。実は昔から日本人とは関わりが深く、縄文時代には栗や胡桃と並んでどんぐりを主食としていました。現在でも一部地域においてはどんぐりを使った食品が生産されており、長崎県ではブナ科のマテバシイで「焼酎」が、長野ではコーヒーの代用として「どんぐりコーヒー」が、岩手県では餡にミズナラやコナラのどんぐりを用いた「しだみ団子」が有名です。生産量は決して多くはありませんが、町興しの一環として新たなメニュー開発なども積極的に行われています。ナラのどんぐりには、デンプンなど栄養はたっぷり含まれているのですが、一方でタンニン、サポニンなどによる渋みが強すぎ、人はそのままでは食べられません。しかし、リス、熊、鹿など野生の哺乳類にとっては冬ごもりに最適な食料となります。リスや鳥類のカケスはどんぐりを集め、離れた場所で葉っぱの下に隠したり、土の中に貯蔵したりする習性があります。隠されたどんぐりの中には忘れられ掘り起こされないものもあり、それらが発芽することで元の木とは離れた場所で次の世代の木となること(=子孫を残すこと)ができるのです。木は動くことができないため、種を遠くに運ぶことができませんが、上記のように野生の動物達との共生関係が保たれています。
 また、夏休みの定番、カブトムシ採集ができるのはミズナラ、コナラやクヌギ(コナラと同じブナ目ブナ科コナラ属の落葉広葉樹。どんぐりはコナラよりも丸い)です。その他クヌギから作られた木炭は断面が美しいという理由から茶の湯炭にも使われています。
森の王
 
 オークはヨーロッパの木々の中でひと際大きく、立派になるために「森の王(King of Forest)」と呼ばれています。ヘブライの全能神エホバ、ギリシャ神話のゼウスやヘラクレス、スラブ神話のペルン、チュウトン族の主神トール、ゲール族の始祖ダグラなどの神木とされるなどヨーロッパの神話に度々登場し、生命力や長寿の象徴として崇められてきました。古代ギリシャではオークが最初に創造された木とされ、ローマ文学の黄金時代を代表する詩人ウェルギリウスは、人はこの木から生まれたとさえ言っています。日本にも樹木崇拝(巨木信仰)はありますが、オークほど特定の樹種への強固な信仰はありません。

世界におけるオーク材

 ギリシャ・ローマ時代の遺跡からオーク材の家具が発掘されるほど、その歴史は長いと言われています。古来、人々はこの木の木陰を住みかとし、この木から滴らせる蜜をなめ、その果実であるどんぐりを挽いてパンを作り、養豚の飼料にはどんぐりを与え、その大きな枝で小屋をつくり、さらにはオーク材を用いて堅固な船をつくるなど、たくさんの恩恵をオークから受け取っていました。オークの豊かな森が、人類に食料を与えることで、人はそこを集落とし、定住した森で豚を飼い、材としてのオークを利用することで住居をつくり、やがて道路や船を作りました。人類の歴史はオークとともにあり、農業文明、産業文明はオークとともに育ったと言えます。やがては鉄の製造に欠かせない木炭の供給として、大航海時代の船材の供給として、様々な木造建築物の材料として、革なめしの素材として、インクの素晴らしい材料としてオークを活用する知識が長く蓄積され、洗練されていきました。
 例えば、オーク材は1682年にルイ14世が建てたヴェルサイユ宮殿や、ノーベル賞受賞祝賀晩餐会が開かれることで有名なスウェーデンのストックホルム市庁舎など、ヨーロッパの歴史的建造物に多く使用されています。

ヨーロピアンオーク施工例
画像3:ヨーロピアンオーク施工例

ヨーロピアンオーク施工例
画像3:ヨーロピアンオーク施工例



樽とオーク
 
 ナラ・オーク材は上記のように様々な用途に活用されていますが、中でもワインやウイスキーの樽として使われていることで有名です。数ある木材の中からなぜオークが使われているのか、理由は大きく分けて2つあります。
 1点目はホワイトオーク類の導管(水分や養分を運ぶ道)の中にチロース(tylosis)という物質があり、それが導管にびっしりと詰まっているので水分を通さず、液漏れをしないためです。木は毎年外側に新しい細胞を作り出しますが、内側の細胞はやがて死んでいき、心材となります。心材は細胞としての機能が停止していますが、その過程で導管がチロースによって充填されるのです。2点目はオークの持つタンニンやポリフェノールといった成分が、樽の中で溶け出すことにより、深い味や香りが生まれるためです。ワイン生産者が樽にこだわる理由はここにあり、オークの種類によっても味わいや香りが異なります。オークはただの容れ物以上の役割を果たしているのです。先述のレッドオークはこのチロースが少ないので、水が漏れやすいため樽には適していません。

ホワイトオーク(北米産 学名: Quercus alba)
バーボンウイスキーやシェリー酒、ワインなどの熟成に広く使われています。特にバーボン樽(Cask)はほぼすべてこの木材で造られています。※ バニラやカラメル、ハチミツなどのような甘いフレーバーとアーモンドやヘーゼルナッツなどの香ばしさをウイスキーに与えると言われています。長期熟成したものはココナッツミルクのような香味も感じさせます。
※バーボンウイスキーはトウモロコシを50%以上使用する、ホワイトオークの新樽で熟成する、アメリカ合衆国で製造するなど、連邦規則集(The Code of Federal Regulations :CFR)のバーボン法と呼ばれる法律の基準をクリアして認定を受けたお酒だけがそう呼ばれることを許されています。一度使用したバーボン樽は再度バーボンの熟成に使用することを認められていないので、ヨーロッパへと輸出され、シェリー樽やスコッチウイスキーの樽として再利用されています。

ヨーロピアンオーク(欧州産/別名:コモンオーク、スパニッシュオーク 学名: Quercus robur)
タンニンやポリフェノール類が豊富なため、熟成感を強調し甘くて重みのあるフルーティーさを生み出します。砂糖漬けにした果物の皮やレーズンなどのドライフルーツ、シナモンや松脂のようなフレーバーを与えると言われています。

ミズナラ(国産 学名:Quercus crispula)
日本固有のオークで、希少かつ高価です。水分を多く含み、燃えにくいためにミズナラという名前が付けられています。伽羅(きゃら)や白檀(びゃくだん)といわれるオリエンタルな香りを与えると言われ、世界でも注目されています。いわゆるお香や、お線香のような香りです。樽の中の成分がにじみ出るまで時間がかかるので、特長を最大限引き出すにはどうしても長期熟成が必要です。サントリーのウイスキー「山崎」では期間限定、数量限定で希少なミズナラ樽で熟成した「山崎ミズナラ」をリリースし、東北・北海道でのミズナラ原生林の復活活動など、未来へ向けての試みも行っています。
ナラ・オーク材の魅力
 
 ナラ・オーク材の魅力は丈夫な硬さや天然木らしい木目と色、深みを増す経年変化です。重歩行用としても充分な硬さと耐朽性から、住宅だけではなく、商業空間や公共施設の床材としても幅広く活用されています。また、ナチュラルな雰囲気がありながらも主張しすぎない表情、使い込むほどに味わい深くなる表情で「これぞ本物の無垢材」という良さを感じることができます。節や白太、柾目を横切るように現れる虎斑などが現れるのも、愛すべき本物の個性です。

ナラ・オーク材の個性
画像4:ナラ・オーク材の個性

ナラ・オーク材の個性
画像4:ナラ・オーク材の個性



▼杢について―装飾性の高い自然の美しさ―【694 号】
www.mokuzai.com/ma_di-152

 当社ではナラとオークと区別しています。極東アジアの寒冷地で育つナラは年輪が細かく板目が多く、一方でヨーロピアンオークや北米産のホワイトオークはナラと比べて大径木のため、柾目の割合が高いです。

ナラとホワイトオークの立木
画像5:ナラとホワイトオークの立木

ナラとホワイトオークの立木
画像5:ナラとホワイトオークの立木



新たな魅力をプラスする
 
 欧米を中心に様々な所でオークが使用されていますが、近年グレー系の色をはじめとして着色し使われることが多くなってきました。また、ヨーロッパ周辺のしっかりと管理された森林から切り出されたオーク材に注目が集まりはじめました。オーク材は塗装の乗りが良いため、トロピカルウッドの色を表現するだけではなく、その他様々な色を表現するのにも適した材と言えます。
 当社ではオーク本来の良さに、新たな魅力を付加する塗装をご用意しています。四季折々の植物の葉や実・根など、自然の恵みを活かして染め上げる草木染や、木目の中に色を刷り込むワイピング塗装などです。その他、木目や質感をさらに際立たせ、立体的な表情を創り出す表面加工もご用意しています。
汎用性が高く、様々なインテリアスタイルに合わせやすいのがナラ・オーク材の特徴です。普段の生活空間や、こだわったプライベートの空間に、無垢材の良さを存分に味わうことのできるナラ・オーク材を取り入れてみてはいかがでしょうか。

ヨーロピアンオーク施工例
画像6:ヨーロピアンオーク施工例

ヨーロピアンオーク施工例
画像6:ヨーロピアンオーク施工例



>草木染フローリング
>ワイピング塗装フローリング
>表面加工フローリング
>人気の樹種 ナラ・オーク材


参考文献
木材樹木用語研究会(2004)『木材・樹木用語辞典』井上書院.
佐道 健(2001)『木がわかる―知っておきたい木材の知識』学芸出版社.
佐伯 浩(2005) 『この木 なんの木』海青社.
ウィリアム・ブライアント・ローガン(2008)『ドングリと文明』日経BP社.
鳥飼 玖美子(2004)『歴史をかえた誤訳』新潮文庫.