木の香りの効能【663 号】

 季節を感じる“香り”、食べ物の“におい”など、“香り”は私たち人間にとって欠かすことはできないものです。さらに最近の研究では、“におい”と記憶はつながっていて、“におい”を脳が感じるとその記憶が呼び戻されるという効果も証明されているほど、“におい”は私たちにとって重要なものです。
 今号では、そんな“香り”と“木材”の関係についてご紹介します。

快適さを増進させる木のにおい
 
 ご存知の通り、木の香りは気分を爽快にします。ほのかな木の香りがストレスを解消し、心身をリラックスさせてくれます。木の香りが快適なのは様々な方法で実証されています。右のグラフはヒノキのにおいがマウスの運動量に及ぼす影響を調べたものです。ヒノキの精油が0.003ppm揮散した状態で最も運動量が増大し、無臭の場合の平均1.78倍となっています。体重の増加、摂取量が毎日一定で安定しているという条件下での実験であることから、運動量の増加は木のにおいによる快適さのためであるといえます。
 また、木のにおいのもとでラットの睡眠時の脳波には、心地よく眠っているときに現れるα波が平均の20〜30%も増加したことが報告されています。
 木の香りのもとでは、ストレスによってあらわれる精神的な発汗が少なくなり、脈拍も安定します。さらに、木のもとで睡眠をとると疲れが早くとれ、次の日の作業効率を上げることも実証されています。

図 ヒノキの香りがマウスの運動量におよぼす影響
出典:木材学会誌 谷田貝光克ら Vol.31(5)
 人知れず、香り続ける木の香り。人に安らぎをあたえるだけでなく、ダニなどの害虫を寄せ付けない効果やカビを抑える効果も発揮する不思議な力をもつ木のにおい。木の香りは、明日への活力をも作り出してくれるのです。
香りの正体はなに?!
 
では、そんな木の香りの正体とはいったい何でしょう。それは、木材中に存在する“フィトンチッド”と呼ばれる精油成分です。樹種のちがい、個性を生み出しているものこそが、フィトンチッド。その種類、含有量は、樹種によって大きく異なり、成分によっては、特定の樹木にしか含まれないものもあります。フィトンチッドは、木の香りだけでなく、色などにも影響を与えるため、その量や種類がその樹種の個性を生み出しているのです。


木の香りはいつまで持続する?!
 
 一般的に、木の香りといって、みなさんが思い起こされるのはスギ、ヒノキに代表される針葉樹の香りです。実は、ナラ、メープルのような広葉樹にはほとんど香りはありません。
 このように木の香りは、樹種の違いによりその強さが異なるため、持続期間を断定することはできませんが、針葉樹をふんだんに使用した住宅は築5年以上経過しても木の香りが持続するともいわれています。住人は慣れてしまって気づかなくとも、初めて訪れる人から「木のいい香りがしますね」と言われることがあるようです。

ハードサイプレスフローリング
香りを有する無垢フローリングの紹介
 
 ここでは、香りを有する代表的な無垢フローリングを紹介しましょう。
ヒノキ
 ヒノキにはα-ピネンなどのモノテルペンのほか、α-カジノールなどのセスキテルペン類が多く含まれています。さらにこれらの芳香成分により、ヒノキ材には、リラックス効果や抗菌作用やダニに対する繁殖抑制効果があることが知られております。

スギ
 スギには、δ-カジネンやβ-オイデスモールなどのセスキテルペン類が含まれ、心地よい芳香の他、ヒノキと同様、抗菌作用などがあります。さらに日本酒の樽にスギが用いられるのも酒にスギ独特の香りつけとともに、セスキテルペン類の防腐作用を利用した先人たちの知恵といえるでしょう。

ハードサイプレス
 オーストラリア産のハードサイプレスは、シトロネル酸やグアイオール、α-,β—,γ—オイデスモールという成分が含まれており、独特の芳香以外にも、シロアリがつきにくく、耐久性が強い特徴があります。さらには、最近の研究では、ハードサイプレスの香り成分には肥満抑制効果があるという研究報告もあり、メタボリックシンドロームが取り出たされている昨今、さらなる研究を期待したい木材でもあります。

 これらのフローリング以外にも、パネリング材として、ウェスタンレッドシダーやベイヒバ、スプルースなど、香りの強い木材は他にも様々あります。
 人によって香りの嗜好は異なります。実際にサンプル等で香ってみて、「におい」を「落ち着く香り」と感じるとき、それがあなたにとって必要な素材のひとつかもしれません。